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東京地方裁判所 昭和31年(タ)29号 判決 1956年4月05日

国籍

イギリス

住所

オーストラリア、ニユーサウスウエールズ、シドニー市

エリザベスヘイエリサベス、ベイ、ロード七一番地

原告

ヴエレンテイン・タウデイアン

(訴訟代理人

長野国助 外一名)

国籍

イギリス

住所

東京都渋谷区神山町五番地

被告

オツトー・タウデアン

(訴訟代理人

渡辺卓郎)

主文

原告と被告とを離婚する。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原則として、

原告は、一九二四年(大正一四年)一二月二四日中華民国ハルピンにおいてイギリス人の子として出生し、被告は、一九一三年(大正三年)四月二八日香港市においてイギリス人の子として出生し、いずれもイギリス国籍を有する者であるが、原、被告は、一九四二年七月二六日上海市の聖母マリア教会で結婚し、当時中華民国でのイギリス領事館の職務を代行していたスイス領事館において右婚姻登録を受けそうして、原、被告は、上海市に引き続き居住し、両名間に一九四二年八月一九日ヒユーオツトー(hughotto)、一九四八年八月八日ウイリアムオット(william otto)がそれぞれ出生したのであつたが、第二次世界大戦後、中華人民共和国が生れ、上海市もその支配下に置かれた結果、被告は右中共政府により抑留されることとなつたので、原告は、被告のすすめに従い、一九五二年三月一五日右二児を伴つて、被告の弟が居住していたオーストラリアシドニー市に移住した。しかるに、被告は、ほどなく右抑留の解除を受けた後、一九五四年八月一三日日本に入国し、被告肩書住所地に居住してキヤビタル保険会社という外国会社の東京支店に勤務していたのであり、その間原告に対して右の事業を少しも通知せず、しかも、原告において調査の結果被告の右新住所を確かめたので、被告に対しその音信並びに同居を求めたところ、被告は、その返事さえよこさず、かような別居の状態のまま既に三年以上を経過し、勿論その間に金銭的援助を原告に与えたことはなかつた。そこで、原告は、被告の真意を確かめるため、一九五五年九月二日単身で日本に入国し、直接被告にこれをただしたところ、被告は、もほや原告との婚姻を継続する意思がない旨を述べた。

本件離婚は、法律第十六条により、右離婚原因事実が発生したときにおける、夫である被告の本国法にあたる、イギリスの法律によるべきであるが、イギリスの離婚法(一九三七年制定法)第二条は三年以上の悪意の遺棄または性的別居をもつて離婚原因とする旨を明定しており、被告の右に述べた行為は、イギリス法上の右離婚原因にあたることは明らかなところであり、かつ、その行為は、日本民法第七七〇条第一項第二号にいわゆる配偶者から悪意で遺棄されたときにもあたる。そこで、原告は、裁判上、被告との離婚を求めるため、本訴請求に及んだ。と述べ、

証拠として、甲第一号証の一ないし一二、第二号証の一ないし一四、第三号証を提出し原告本人訊問の結果を援用した。

被告訴訟代理人は、原告請求どおりの判決を求め、原告の主張事実をすべて認めると答え、甲号各証の成立を認めた。

当裁判所は、職権により、被告本人を尋問した。

理由

外国公文書であつて、真正に成立したものと認める甲第一号証の一ないし三、(原告の旅券)第二号証の一ないし三、(被告の旅券)は成立に争がないので、真正に成立したものと認める。第三号証、原被告本人尋問の各結果を総合すれば、被告は、一九一三年四月二八日香港においてイギリス人の間に出生し、イギリス国籍を有する者であること、原告は一九二四年一二月二四日ハルピンにおいてロシア人の間に出生した者であるが、原、被告は、一九四二年七月二六日上海に居住中、両所において婚姻し同時に、原告はイギリス国籍を取得したこと、右両名間には、一九四三年八月一九日ヒユーオツトー、一九四八年八月八日ウイリアムオツトーがそれぞれ出生したことを認めることができる。

つぎに、前記中第一号証の一ないし三、第二号証の一ないし三、外国公文書であつて、真正に成立したものと認める甲第一号証の六第二号証の九、一〇に原、被告本人尋問の各結果を総合すれば、原被告は、右婚姻の後も上海に居住し、被告は、商業に従事していたところ中華民国が中華人民共和国政府の支配下に置かれ、被告は同政府により抑留されるに至つたので、原告は、被告と協議の結果、被告の弟が居住していたオーストリアシドニー市に赴くこととし、一九五二年三月一五日前記二名の子を伴つて同所に移住したこと、被告は、ほどなく右抑留の解除を受け、一時香港に居住したが、「キヤピタル」保険会社横浜支店に就職し、昭和二九年(一九五四年)八月一三日日本に入国し、ついで、日本に永住の目的で被告肩書住所地に同住し、現在に至つたのであつたが、その間被告は、右シドニー市在住の弟を通じ若しくは、直接に原告に対して金銭上の援助を与えることもなく、また、手紙等の連絡により右の消息を原告に伝えることもせず、原告を捨てて顧みないで来たことが認められ、右認定に反する証拠はない。

離婚は、法例第一六条により離婚原因事実が発生したときにおける夫の本国法によるべきであるから、本件離婚は夫である被告の本国法にあたるイギリス本国の法律によらなければならないが、同国の法律は、離婚に関する法律のてい触につき、当事者の双方または少くとも夫の住所地の法律を適用すべきものと定めることは、明らかであるので、法例第二九条により、本件離婚は、日本民法によるべきものである。そうして、右認定事実によれば、被告は、原告を悪意で遺棄したものといわなければならないから、その行為は、日本民法第七七〇条第一項第二号にあたるものである。

かようなわけで、原告の本訴請求を正当として認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤令造 田中宗雄 間中彦次)

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